ライブドアのMSCBとMPOについて、ちらっと考えてみた

  • Facebook
  • Twitter
  • はてなブックマーク
  • Delicious
  • Evernote
  • Tumblr

47thさんが「借株について本気出して考えてみた」で、ライブドアの貸株について本気出して考えてらっしゃいますので、私も、そのへんについてちらっとだけ考えてみたいと思います。
この記事の中で、taka-mojitoさんの「ライブドア、ニッポン放送株35%を取得」 という記事から以下の部分を引用されてますが、

ただ、よくよく考えてみれば、LB証券としては、ライブドアに貸した800億円が株式に化けるに過ぎないわけで、ライブドア株を長期保有する意思がない限り、800億円の見合いとして入手した株式を売り抜けることが最重要課題であるはずなのです。・・・(中略)・・・今回のLB証券の場合は、800億円のロング・ポジションを持っているのと同じなので、いかに安く買うかではなく、いかに高く売るかがポイントになるのだと思います。
結局、LB証券としては、ニッポン放送株の値段を見てフレキシブルにショート・セルを行い、自己のポジションをヘッジするために、借株の約束を取り付けておいたという単純なことなのではないか、というのがぼくの現時点での推論です。もう実は売り始めているかも・・・?

今回のCB引き受けは、証券会社にとって「ロング」なんでしょうか?
(お二人がロングと断定されていると私が思っているということではありません。ごく一部だけを引用してますので、お二人のお考えは、上記の元記事をよーくお読みください。)
今回のMSCBの条件は、一昨日の記事でも書いたとおり、ライブドアの立場に立って悲観的に考えればかなり「ガクガク(((((゚Д゚)))))ブルブル」な条件なわけですが、逆にCB保有者にとっては、「株価との連動性が非常に高い」条件です。マクロにざっくり見ると基本的にはロングじゃなくてニュートラルなのかな、と。
今回の新株予約権は800個で、「一部行使はできないものとする」となってますので、1個1億円分ごとに株式に転換していかないといけませんが、ライブドアの出来高を見ると、毎日100億円前後は出来ているようですので、1億円単位でも比較的すぐに消化可能でしょう。今回の条件では、直前3連続取引日の90%で転換できるので、価格が上昇傾向の時に転換すれば、これだけでほとんどリスクヘッジできちゃってるのではないかと思います。
ではプレスリリースに、

今回の調達に伴い、当社筆頭株主及び代表取締役社長兼最高経営責任者である堀江貴文は、その保有する当社発行普通株式の一部をリーマン・ブラザーズ証券会社グループに貸借する合意を行っております。

とある貸株の意味は何なのかな、ということですが。
好意的に解釈すると、「下限転換価額を下回りそうになったら堀江社長から株を借りますよ」とか、「転換を請求して事務手続き上株式が売却可能となるまで、リスクヘッジのために借りた株を売っておく」というだけかも知れませんね。
でも、(以前も書きましたが)そういう「健全な」条件なら、プレスリリースにもそう書いておけばいいのにね。
なぜ「MPO」は和製英語なのか?
だいたい、Web上の論調を見ても、MSCBやその発行を行った経営者や、それを引き受ける証券会社は「ワルモノあつかい」されることが多いかと思いますが、以下、「ホントにそうなんでしょうか?」という観点から。
MSCBを証券会社に対して発行し、証券会社が株に転換して市場に徐々に放出する方法を「MPO」(Multiple Private Offering、マルチプル・プライベート・オファリング)と言うようですが、Googleでこの用語を引いてみても、日本語のページしかヒットしないので、おそらく、「MSCB」同様、和製英語なんでしょう。
(追記:この記事の次のエントリー参照。)
もしかしたら、海外では違う言い方をしてるのかも知れませんが、同じスキームが存在すれば、わざわざ和製英語を作らないでしょうから、やはりそういうスキームは海外には存在しない可能性が高いのでは。
では、仮にそうだとして、なぜ海外では採用されないのに日本ではこうしたスキームが採用されるのでしょうか?
「日本の発行体がアホだから」とか、「証券会社が発行体をだましているから」とか、「アメリカはコーポレートガバナンスが発達してるし、代表訴訟のリスクがあって、こんなMSCBは事実上発行できないから」とかいうことも考えられますが、以前も「転換社債(CB)を用いた”新”資金調達スキーム(その2)」という記事でちらっと書いたとおり、もしかすると、日本の商法等の法律や制度が(発行までに二週間以上かかるとか、公告のコストが高いのであまりちょこちょこ発行できないとかなど)フレキシビリティを欠いているからかも知れませんね。
スタジオジブリ風に言うと、

きれいな水と土では腐海の木々も毒を出さないとわかったの。
汚れているのは土なんです。

ということで、「腐海」や「虫」が悪いんじゃない、(そういう「土」のもとでは、そうした「生態系」が自然にできあがる)、という観点ですが。
法律や制度の「ゆがみ」のせいで、既存株主が損害を受け、証券会社がおいしいことになっているのであれば、MSCBや証券会社をワルモノにするよりも、制度の方を変えた方がいいのかも知れませんけど。
さて、どうなんでしょうか。
MPOの実態
今回いろいろググって見ると、MPOについて詳しく述べられているページをいくつか発見しました。
複合デリバティブ商品の概要と評価方法−MPO商品の評価
KPMG税理士法人 パートナー 河野辺 雅徳、シニアマネージャー 伊東 康彦
http://www.kpmg.or.jp/resources/newsletter/financial/cf/200410/03.html
という記事では、MSCB等のオプションバリュー等をどうやって算定しているかについて、

格子法(ツリー・モデル)
格子法は、MPO商品が有するような複雑なオプションの価値算定が可能であり、かつ商品特性に応じたモデルの変更が可能なことから、一般に、MPO商品におけるオプション価値の算定には格子モデルが最適であると考えられている。格子法には二項モデル(バイノミアル・ツリー・モデル:図表3参照。なお、二項モデルによる計算方法例は図表4参照)および三項モデル(トリノミアル・ツリー・モデル)等といった多項モデルがある(なお、格子法の詳細については、既著『経営者のための事業価値評価』(中央経済社)および本誌2004年5月10・20日合併号(1050号)「事業投資の意思決定とバリュエーション」を参照されたい)。なお、評価の精度と実務上の取扱いの容易さを勘案して、我々は通常「三項モデル」を用いて評価を行っている)。

と、KPMG税理士法人さんでは、「三項モデル」を使って評価されているということが記載されています。
また、証券会社等がどうやって評価しているかについては、

証券会社等多くの金融機関においては、MONIS社(現在はSungard社に吸収合併)が開発した「MONIS Convertibles XL」と呼ばれる評価モデルを用いて評価を行っている場合が現状では多い。

ということで、「10階層の多層構造の格子モデルを使い評価額をはじき出すモデル」を使っているようです。(こういうことやってるのは、ちゃんとした証券会社だけで、怪しげなMSCBを引き受けているところはそんなことやってないような気もしますが・・・。)
kpmg_mpo.gif
(出所:KPMG税理士法人)
そのモデルについてはこちら。
Monis Convertibles XL version 6.0
http://www.sungard.com/ products_and_services/
(お試し可能とのこと。)
「専門家」に聞いたのか?
こうした評価方法は、まだ一般の事業会社ではわかる人は極めてまれでしょうし、こうした評価方法のわかる専門家が発行体側のアドバイザーとしてついているかどうかが問題ですね。
アメリカの裁判では、取締役の注意義務を問う場合、「専門家に聞いたのか?」というのが一つの基準となると聞いてます。
こうしたモデルでは、個々のパラメータ(特に、原資産である株式のボラティリティの推計をどうするか、あたり)を適当に設定することで、リスクの程度はいかようにでも見せられると思います。
今回のライブドアでのCBの発行は、かなり「バタバタ」行われた印象があるのですが、もし、証券会社側が「これだけ資料をそろえておけば、有利発行をしたとは言われないですよ」とか「御社にとってもリスクはあまりないです」といって出してきた資料を鵜呑みにして、発行体側で別途第三者である専門家に確認してなかったとしたら、注意義務を怠っていたと言われる気もします。
実務では、そういった「第三者」も証券会社が紹介してくれるのかも知れませんが。(証券会社から紹介された「第三者」が、「この条件は発行体にとってヒドすぎる」というようなコメントを言ってくれるとは思えませんけど・・・。)
その他参考資料
また、旬刊経理情報2005年1月10・20日号 の「新しい資金調達方法MPOの仕組みと留意点」という特集がかなりまとまっているようです。(各記事の1ページ目だけ、pdfが見られます。)
以下の方々が記事を書かれてらっしゃいます。
多様なニーズに応えるMPOの仕組みとメリット
野村證券� キャピタル・ソリューション部 エクイティ・ソリューション二課長 冨永 康仁
http://www.keirijouhou.jp/keirijouhou/1072/1072008.pdf
前述のKPMGさんの記事では、「MPO商品は、そもそも外資系証券会社が日本市場に持ち込んだ商品といわれているが」と、「外来種」であるような記述がありますが、この野村證券さんの記事では、MPOは「野村證券が二〇〇三年一二月に初めて提供した新しいエクイティ・ファイナンス手法である。」と、「日本起源説」を唱えられているようです。
MPOをめぐる法的問題有利発行か否か
あさひ・狛法律事務所弁護士 新家 寛
http://www.keirijouhou.jp/keirijouhou/1072/1072014.pdf

本稿では昨年一二月以来、各種MPO案件に当初より関与してきた弁護士の立場から、MPOの有利発行性を検討する上で留意してきた点のいくつかを紹介する。

設例で解説 MPOにおける発行証券の評価方法
みずほ第一フィナンシャルテクノロジー�
業務推進部 課長 児玉 雄一
http://www.keirijouhou.jp/keirijouhou/1072/1072020.pdf

MPOで利用される商品はエクイティオプションの要素を含んでいることから、その価値評価ではオプション評価モデルを利用することが適当と考えられる。また、評価者は、評価対象の商品性に応じて適切なモデルを選択して、可能な限り忠実に商品性を再現する必要がある。本稿では、MPOで利用される商品の評価手法を、事例を使って紹介する。

MPOにおける発行・転換・償還時の会計と税務
ユナイテッド・パートナーズ会計事務所パートナー・税理士 松 為久、寺田 芳彦
http://www.keirijouhou.jp/keirijouhou/1072/1072025.pdf

その実態は公募増資に近似するが、会計・税務上はいわゆる転換社債として取り扱われ、転換社債と同様な処理となる。転換社債については転換時の会計処理が明確でないこと、税務上は有利発行の議論が存在することにスポットを当てている。また、トピックスとして簡単に米国会計基準の場合の取扱いについても触れている。

(ご参考まで。)

[PR]
メールマガジン週刊isologue(毎週月曜日発行840円/月):
「note」でのお申し込みはこちらから。

ライブドアのMSCBとMPOについて、ちらっと考えてみた” への10件のコメント

  1. ライブドア、ニッポン放送株35%を取得

    ライブドアのニッポン放送株取得をめぐっては、様々なブログでいろいろな情報(憶測も含む)が飛び交っています。ぼくも、当初は傍観をしているつもりだったのですが、仕事柄、自分にとって興味深い点も多くあることから、みなさんにも一緒に考えていただければと思い、遅…

  2. 毎度、取り上げていただいてありがとうございます。磯崎さんに取り上げていただくと影響力大なので、言葉の使い方はよく吟味しないといけませんね。ということで、若干追記をしました。引用をしていただいた直後に基本的な間違いもありましたので、併せて直しました。

  3. はじめまして。
    MPO(これは野村證券の商標らしいです)について思うところを述べさせて頂きます。
    思うに日本でこのスキームがポピュラーになりつつあるのは、ご指摘の通り公募増資が硬直的なことが挙げられましょう。主幹事証券で引受審査をして会計士のコンフォートレターをとって、シンジケーションを組んで・・・としていると、発行決議までにおおよそ2ヶ月かかります。そこから先も届出書の発効まで短縮されたとは言え、やはり最短でも3週間はかかります。
    このような硬直的な(それぞれ期間を要するのにはちゃんと意味合いはあるのですが)公募増資に比して、MPOは機動的に調達できるということが大きいです。それにMPOの場合には一度に発行済み株式数が増えないことからダイリューション懸念も少ないものです。
    付言すれば、公募増資の場合には市場からみて魅力がなく相当ディスカウントしなければブックが積み上がらないような銘柄が今までは多くMPOを発行してきましたね。
    なのであながち証券会社が発行体をダマくらかしているというのは筋が違うと思料します。
    評価については、国内系・外資証券ともにbinomialモデル等を使ってちゃんとバリュエーションをしていると思いますよ(ご案内の通りアメリカンなのでブラックショールズは使えません)。
    ではまた。

  4. <ライブドア>ニッポン放送株を取得 持ち株比率は35%に

    こんにちは、梓と申します。
    誠に勝手ながら、関連しそうな記事にTBさせていただきました。
    ご迷惑であれば、お手数ですがご削除いただければ幸いです。

  5. >取締役の注意義務を問う場合・・・
    まあLDの場合は役員のいってることを鵜呑みにすればノリだわね。テレビで公言してたんだから・・・。
    社長本人が専門家なのでいわゆる外部アドバイザーとしての専門家はいないのでは?
    LD株主からの代表訴訟リスクを考慮してなかったのかしら?
    ずいぶんリスクを抱えるのが好きな方々なのね・・・。
    ニッポン放送の増資には取締役会決議が必要だし、ニッポン放送としてのフジの買い増しには、株主提案では難しいのではないかしら・・・。どうなのかしらね?
    今後のなりゆきをリアルオプションを使って考えてみても面白いわね。
    LDはニッポン放送の大株主であることは間違いないのでしょうけど、どうも株主としての権利と経営陣としての権利の区別ができていないような印象をうけるわね・・・。

  6. 借株について本気出して考えてみた(続き)

    三連休だからと油断していたら、昨日の記事について、早速磯崎さんからTB(ライブドアのMSCBとMPOについて、ちらっと考えてみた )を頂きました。
    まず、最初に明らかにしておきます。
    「本気出して」はシャレです。パロディです。書いていることは、いつもと同じで、単…

  7. ライブドアvsフジデレビ Blog対決!

     対決ってほどではないですが、関連blogです。 livedoorのblogはやはり堀江氏応援団が多いですね。 今回は、買収資金の調達方法である「SMCB」にも注目が集まっているようです。
     今回は短期決戦で勝負がつきそうなので、どのblogが的を射…

  8. 海外でのMSCBのお話ですが、convertible loan, convertible debentureという形態で昔からありましたし結構大量に訴訟が起こってます。
    例えば
    http://www.sec.gov/litigation/complaints/comp18003.htm
    これなんかはvwap-15%で転換できて、
    しかも大量の空売りを浴びせたということでSECから訴えられてます。
    また、昨年regulation SHOが出来たそうで、端的に言うと空売りのショートカバーを有利発行された新株でやってはいけないというものと私は理解してます。(まだ日本語訳を見たことないので理解の段階です。)
    MSCBであっても、売り崩しができなければ、マーケットには悪影響が出ないと思いますから(有利発行のdilutionの話は別として)、アメリカではこういう方向のようです。

  9. みなさん、コメントありがとうございます。
    hidesanさん、
    米国の事例、どうもありがとうございます。大変勉強になります!
    では。