ニッポン放送株の潜水艦戦(その3)

  • Facebook
  • Twitter
  • はてなブックマーク
  • Delicious
  • Evernote
  • Tumblr

ひやしあめさんからまたコメントいただきました。

で、勝手な想像ですが、鹿内氏は信託設定する際に、議決権だけは自分に残しておいたんじゃないですかねぇ。

なるほど、これはあるかも知れませんね。
バラバラ譲渡説
つまり、ニッポン放送株に係わる経済的な権利と議決権をバラバラに譲渡した、ということですね。
大量保有報告書によると、昨年5月に鹿内氏は、「保有有価証券を受益者のために管理する目的をもって信託銀行に信託」してますが、このとき(またはこのときから今年の1月4日までのどこかで)、信託受益権(経済的な権利の部分)を大和さんに譲渡。
ただ、その信託と鹿内氏の間で議決権の行使に関しては鹿内氏が行う旨の契約が結ばれていた、と。
で、1月4日にその信託契約を解除したので、受益権を持っている大和さんに株式が交付された、という説ですね。
「保有者」は誰か
ここで大量保有報告書で開示する「保有者」とは誰なのかが問題になるわけですが、報告書のそもそもの目的や条文からして、経済的利益を誰が享受しているかではなく、「議決権を誰が持っているか」に注目して判断するということではないかと思われます。

第二十七条の二十三 第1項�
第一項の保有者には、自己又は他人(仮設人を含む。)の名義をもつて株券等を所有する者(売買その他の契約に基づき株券等の引渡請求権を有する者その他これに準ずる者として政令で定める者を含む。)のほか、次に掲げる者を含むものとする。ただし、第一号に掲げる者については、同号に規定する権限を有することを知つた日において、当該権限を有することを知つた株券(株券に係る権利を表示する第二条第一項第十号の三に掲げる有価証券その他の内閣府令で定める有価証券を含む。以下この項及び次条において同じ。)に限り、保有者となつたものとみなす。
一 金銭の信託契約その他の契約又は法律の規定に基づき、株券の発行者である会社の株主としての議決権を行使することができる権限又は当該議決権の行使について指図を行うことができる権限を有する者(次号に該当する者を除く。)であつて、当該会社の事業活動を支配する目的を有する者
二 投資一任契約(有価証券に係る投資顧問業の規制等に関する法律(昭和六十一年法律第七十四号)第二条第四項に規定する投資一任契約をいう。)その他の契約又は法律の規定に基づき、株券等に投資をするのに必要な権限を有する者

投資一任契約でも、実質的な受益者ではなく、運用している人が開示されるわけです。「村上ファンド」でも、実際のリターンは村上ファンドの出資者に行くわけですが、その投資家の名前は開示されません。
その解釈でいいとすると、「経済的権利」だけを譲渡しても、議決権が残っていれば、まだ自分が「保有」してるものとして開示するということになるということでしょうね。
鹿内家はちゃんと昨年5月に信託設定したことを開示してます。ので、本来、そこで「なんのために信託設定したんだ?」「何かニッポン放送の株主構成に大きな変化があるんじゃないのか?」と、いぶかしがらないといけなかったわけですね。
教訓その1:「大株主が株式を信託したら、実質的に譲渡したんじゃないか(これからする気なんじゃないか)と怪しむこと。」
譲渡所得に対する税率は?
さて、譲渡や議決権はそうだったとしても、税金の問題というのもあります。
ご案内のとおり、上場株の譲渡所得の税率は分離課税で10%ですが、株とか不動産以外の普通のモノを譲渡した場合、総合課税になって最高50%もの税率になってきます。
今回、鹿内家から譲渡されたニッポン放送株は100億円を超えますので、税率がどうなるかは極めて重要。税率によって、手取りが何十億円も違ってくるわけですから。
租税特別措置法では、この分離課税となる「株式等」の範囲を以下のように定めています。

租税特別措置法第三十七条の十
3 前二項に規定する株式等とは、次に掲げるもの(外国法人に係るものを含むものとし、ゴルフ場その他の施設の利用に関する権利に類するものとして政令で定める株式又は出資者の持分を除く。)をいう。
一 株式(株式の引受けによる権利、新株の引受権及び新株予約権を含む。)
二 特別の法律により設立された法人の出資者の持分、合名会社、合資会社又は有限会社の社員の持分、法人税法第二条第七号に規定する協同組合等の組合員又は会員の持分その他法人の出資者の持分(第四号に掲げるものを除く。)
三 新株予約権付社債(資産の流動化に関する法律第百十三条の二第一項に規定する転換特定社債及び同法第百十三条の四第一項に規定する新優先出資引受権付特定社債を含む。)
四 協同組織金融機関の優先出資に関する法律(平成五年法律第四十四号)に規定する優先出資(優先出資の引受けによる権利及び優先出資を引き受けることができる権利を含む。)及び資産の流動化に関する法律第二条第五項に規定する優先出資(優先出資の引受けによる権利及び同法第五条第一項第二号ニ(2)に規定する引受権並びに優先出資に類する出資として政令で定めるものを含む。)
五 公社債投資信託以外の証券投資信託(第五項において「株式等証券投資信託」という。)の受益証券及び証券投資信託以外の投資信託で公社債等運用投資信託に該当しないもの(同項において「非公社債等投資信託」という。)の受益証券
六 第八条の二第一項第二号に規定する社債的受益証券以外の特定目的信託の受益証券

今回の信託は、これらには該当しないと考えられますので、「じゃ、半分は税金でもってかれちゃうの?」と思うわけですが・・・
所得税法第十三条(信託財産に係る収入及び支出の帰属)で、「信託財産に帰せられる収入及び支出については、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める者がその信託財産を有するものとみなして、この法律の規定を適用する。」と「信託導管理論」に基づく規定がありますが、これが受益権自体の譲渡にも適用されるのかどうか。
土地信託に関する通達
実は、土地に関しては通達が出てまして、信託受益権を譲渡した場合には、その信託の目的物を譲渡したものとみなす、とはっきり書いてあります。

土地信託に関する所得税、法人税並びに相続税及び贈与税の取扱いについて
昭和61年7月9日
http://www.nta.go.jp/category/tutatu/kobetu/houzin/853/00.htm

ところが上場株を信託した信託受益権を譲渡したらどうなるかについては通達が見あたらないんですね。土地なら、信託にしたほうが譲渡の際の登録免許税が安くなるなど明らかなメリットがありますが、上場株の譲渡はそんなにコストのかかるもんじゃないので、わざわざ信託にする人はあまりいないでしょうからね。
土地がそうなら上場株でも同じ扱いのはずじゃないか、という説もあるようですが、通達はあくまで「土地信託」となってますので、そこはリスクはあるわけです。上場株をそのまま譲渡したら明らかに税率は10%なのに、分離課税でもいいけど税率は20%になるよというだけでも、10億円以上手取りが違ってきてしまいますから。
そういえばロンドンに引っ越されてました
そこまで考えて「はっ」と気づきましたが。
以前のエントリーにも書きましたが、鹿内氏は、昨年の5月の報告書を出したときには(確か)もうロンドンに引っ越されていたんですね。イギリスの税法がどうなっているかよく存じませんが、日本にいるより10億円単位で手取りが増えるのであれば、私だってロンドンに1年くらい移住してもいいです。(笑)
うーん。お金持ちの世界はすごい・・・。
上場会社の支配権移動をめぐる信託受益権の活用
ちなみに、もし、大量保有報告書の開示が上記の仮定のとおりでいいとすると、この信託受益権による譲渡のスキームは、国内の法人にはより適用しやすいことになります。
つまり、生の株で譲渡しようと信託で包んでリボンを付けて譲渡しようと、課税される法人税率は変わりませんからね。
信託を使われると、表面上の株主に変化がないので安心していたら、実は、いつの間にか知らない人に実質的な権利が移って買収の準備が進められていた、という恐ろしい事態も考えられるわけです。
同じく、ひやしあめさんのコメントでご紹介いただいたホームページに、「あさひ・狛法律事務所」の川東憲治さんという弁護士の方が「上場会社の支配権移動をめぐる信託受益権の活用」という発表をされていることが載ってます。(2004年5月26日発表)
http://www.alo.jp/practice/practice02_1g.html
偶然のいたずらか?、信託設定が記載された鹿内家の大量保有報告書が提出される前日ですねー。
(偶然なんですかねー?それとも、まさに、この方が担当されたんでしょうか?)
(ではまた。)

[PR]
メールマガジン週刊isologue(毎週月曜日発行840円/月):
「note」でのお申し込みはこちらから。