MSCB(転換価額修正条項付転換社債)と「私募債マフィア」

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47thさんから「過激な条件のMSCBは商法違反ではないのか?」にコメントいただきました。

CBにおける、特に有利なる発行条件については、平成13年11月改正の際に相当な議論があったところです( http://www.jsda.or.jp/html/oshirase/CBWGreport.html 参照)。このあたりの議論を意識していれば、発行価額無償としていても、ある程度評価の裏付け等をとってやっているのだと思いますが、なかには実際の訴訟事例がないので、とりあえず当初転換価格が時価を下回っていなければいいといった程度の認識のところもありそうですね。
ただ、新株予約権付社債については、無効の訴えができないという判決が東京高裁で出てしまったので(東京高判平成15.8.20金商1196号35頁)、実際に争うことは難しそうです。(この判決もかなり問題が多いと思いますが・・・)
下限のないMSCBについては、ご指摘のような問題のほかにも授権枠保留規制(222条の2第3項が準用)との関係も問題となり、最悪、新株発行ができなくなるという事態すら起こり得るのですが、ファイナンスの実務では余り意識されていないようです。
何れにせよ結局紛争が起きないと、こうした点は検証されずに終わってしまうのですよね・・・

ありがとうございます。大変参考になります。
先日よりこのMSCB(転換価額修正条項付転換社債)に関しては、新聞、雑誌、テレビ局の方などから、多数取材をいただきまして、「大反響」といったところなんですが、
そういった記者さんからの情報を総合すると、「私募債マフィア」と呼ばれる方々(具体的にどういう方々なのか私もよく存じませんが、弁護士・会計士などを含むチーム?)が、体力の弱った企業にMSCBの発行を持ちかけて、空売りなどを組み合わせて利益を上げている動きがあり、「行政」側もかなり「注視」している模様。
もしかしたら、「事件」になるのかも知れません。
一方で、この過激な条件のMSCBの問題は、商法・証券取引法などの法解釈の「弁護士的」側面だけでなく、オプションバリューの計算のような「金融工学(クオンツ)的」側面や、空売りなどの「相場師的」実務など、いろんな専門知識が表裏一体となっているので、そういった意味でも事件を立証するのが難しいかも知れません。
ただ、ややこしくて誰もわからんだろうから何をやっても許されるというはずもないわけで。
47thさんからいただいたURLの、日本証券業協会の「商法改正に伴う転換社債の取扱いについて」(平成14年2月28日)の記述では、

さらに従来の転換社債の発行を困難なものにするのではないかと懸念されたのが、発行に際して株主総会の特別決議が必要となるいわゆる有利発行(新第341 条ノ3 第3 項)に該当するか否かの判断基準並びに新株予約権の発行価額及びその行使に際して払い込むべき額の算定理由の公告又は既存株主への通知(新第341 条ノ15 第3 項において準用する新第280 条ノ23)である。解説3によれば、新株予約権の行使によって発行される新株の発行価額4が新株予約権の行使期間におけるその会社の株式の合理的に予測される時価よりも低い価額で発行される場合に、その新株予約権の発行が有利発行となるとされている。しかし、将来時点における株式の時価を合理的に予測するためには非常に複雑な理論が必要である。これを公告又は通知したところで一般の投資家や株主がその算定理由の妥当性について適切な判断を下せるかどうかは疑問であり、有利発行に該当するか否
かの判断をめぐって混乱が生じることも考えられる。一方、有利発行に該当する可能性があっても株主総会の特別決議を行えば発行することは可能であるが、取締役会の決議に比べて厳格な手続きが必要となり、また公開会社等多数の株主が存在する会社においては株主総会を頻繁に開催することは困難であることから、資金調達活動の機動性が大きく損なわれることとなる。
加えて、投資家に対する商品性についての説明が従来の転換社債と同じ方法ではできなくなるのではないかと考えられたのが、転換社債への投資に当たっての判断材料として用いられてきた転換価額やパリティが計算できなくなるという問題である。転換社債型、すなわち代用払込しか認めない新株予約権付社債の新株予約権を行使したときの払込金額は社債部分の発行価額であり(新第341 条ノ3 第2 項)、新株予約権の発行価額を有償とした場合、当該新株予約権付社債の発行価額と比較すると新株予約権の発行価額の分だけ減る5こととなり、発行価額すべてが払込金額となる従来の転換社債とは異なることとなる。このため、従来から用いられてきた転換価額の算定は困難6となり、ひいては転換社債のパリティの算定もできなくなる。これにより、転換社債の投資尺度を根本から見直すことを余儀なくされ、証券会社による投資家に対する説明が非常に困難になるばかりでなく、投資家の投資判断に混乱を惹起し、ひいては投資対象としての魅力が著しく損なわれることが懸念された。

・・・と、投資家の立場(というか、「ややこしいと売りにくくなるやんけ」という証券会社の立場というか)から、

新株発行に際しての有利発行か否かの判断基準は、新株の発行価額が発行当時のその株式の時価を著しく下回っているどうかである。従来の転換社債についての判断基準は「特ニ有利ナル転換ノ条件」であった(旧第341条ノ2 第3 項)が、実務上は新たに発行しようとする転換社債の転換価額が転換により発行される株式の発行当時の時価を著しく下回っているかどうかが重要な判断基準となっていた。
改正後の商法下における新株予約権についても、その行使によって発行される新株の発行価額が有利発行か否かを判断する重要な要素の一つであることには変わりがないが、改正後の商法上、新株予約権付社債の新株予約権についての有利発行の基準は「特ニ有利ナル条件」をもって発行することとされている(新第341 条ノ3 第3 項において準用する新第280 条ノ21 第1 項)ことから、新株予約権付社債の条件を総合的に判断する必要が
ある。
従って、改正前の商法下において取引所有価証券市場や店頭売買有価証券市場に上場されている転換社債と同様の条件設定が行われる場合(海外における同様のものを含む。)は有利発行の問題は生じないものとするが、それ以外の場合は諸条件を総合的に勘案して条件設定を行う必要がある。
当初、有利発行に該当する諸条件を数的基準を含めて具体的に列挙することも検討した。しかし、一つの条件が有利発行に該当するものであっても他の条件と併せて勘案すると有利発行には該当しないと判断されるものも十分にあり得る。勘案すべき要素が何で、それについてどのような条件が設定されたとき、それらの条件がどのように組み合わさったときに有利発行に該当するものと判断するのかをあらかじめ想定することは困難であるため、この検討の場では具体的な条件を示すことはしないこととした。
なお、勘案する要素としては、例えば、発行当時の行使価額の水準、将来の行使条件の修正条件、社債の年限・利率、普通社債との利率の格差、行使可能期間等が考えられる。

・・・と、新株予約権を無償発行しても必ずしも株主総会決議は必要ないよ、と言ってます。同時に、具体的にどういった要件を満たせば有利発行にならないか、ということについては例示を避けてますね。
ただ、別紙2の2ページでは、

5. 現在、取引所有価証券市場や店頭売買有価証券市場に上場されている転換社債と同様の条件設定が行われる場合(海外における同様のものを含む)は、有利発行の問題は生じないが、今後は、当初の行使価額の水準に加え、将来の行使価額の修正条件、社債の年限・利率(普通社債との格差)、行使可能期間等を勘案して、条件設定を行う必要がある。
6. ただし、この場合であっても、例えば修正行使価額の下限が定められていない場合、あるいは著しく低い水準で定められている場合は、有利発行となるおそれがあるので留意が必要となる。

と具体例を出してますので、行使価格の下限が定められていないようなMSCBの発行には、おそらく証券会社は関与してない(「私募債マフィア」等の指導で発行した)んでしょうね。
有利発行かどうかは、実体的・理論的側面からすると、オプションバリューの理論で決まってくるはず。
証券会社によっては、オプション価値をシミュレーションするモデルのプログラムを作成して、株式のボラティリティ、行使条件などからシミュレーションして引き受けるMSCBの条件の限界を設定しているかも知れません。また、そこまで深く考えてない(シミュレーションが構築できないので、横並びで条件等見比べている)証券会社もあるんじゃないかと思います。
私も、ボラティリティや条件などから、パターン別(行使価格変更のタイミング(月、週、日等)、下限価格、上方に修正がついている場合と下方のみの場合、等)、または条件の特殊なものは個別に、オプション価値を算出するシミュレーションを作成しようと思ってるのですが、ちょっとバタバタしてましてまだ取りかかれてません。
(ではまた。)

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MSCB(転換価額修正条項付転換社債)と「私募債マフィア」” への2件のコメント

  1. とても力作ぞろいのレポートで、たいへん勉強になります。感謝しております。
    MSCBには、どうもいかがわしいイメージが抜けません。たとえば転換価額の上限、下限を時価の±50%で設定し、公表後に見事に下げ続けて下限に近づいていくケースなどが散見されます。これ、やっぱり引受け手による空売りによるものでしょうか。引受け手が証券会社の場合には作為的相場形成にあたるのでは。また、このオペレーションが容認されるのであれば有利発行にあたるのでは。
    そもそも、発行会社にとってMSCBは公募に比べて必要な資金が確実にゲットできるというメリットはあるのでしょうが、引受け手が大きな利益を得る(おそらく)、すなわち投資家にツケを回すことについて経営者はどう考えているのか。引受け手は、どうやって、どれだけ儲けるのか、違法となるリスクをどう見ているのか。
    と疑問が尽きません。
    そして、なによりこの辺りの情報が投資家から全くみえないことが不満です。これでは市場に参加する個人投資家は増えようがないとも思えます。
    と、すいませんちょっと感情的になってしまいました。
    今後とも引き続き、楽しくレポートを拝見します。どうも失礼しました。

  2. ライブドアとりあえず議決権ベースで過半数獲得おめでとう!!

    いやー、MSCBというエキゾチック・デリバティブを使った資金調達スキームと言い、日本の法律の盲点をついた時間外取り引きと言い、新興IT企業がエスタブリッシュメントのテレビ局のオーナーになる構図と言い、堀江さんは日本の金融史に堂々と自身の名前を刻みましたね。
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