独占交渉権、剣豪たち?の戦い

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旬刊商事法務の最新号に、弁護士・ニューヨーク州弁護士の手塚裕之氏が、「M&A契約における独占権付与とその限界−米国判例からみたUFJグループ統合交渉差止仮処分決定の問題点」という論文を書かれています。
これ、非常におもしろい、です。
論文の中身をかいつまんで申し上げますと、最高裁まで争われたUFJと住友信託の合併交渉の基本合意書については、地裁から最高裁まで、基本的に契約法的検討しか行っておらず、「コーポレートガバナンス」の観点が全く欠如している、ということ。
「合併の基本合意書が、なんでコーポレートガバナンスと関係あるの?」という感じがするかも知れませんが、そこが重要なところ。詳細は以下の通り。
Omnicare v. NCS Healthcareの判例
論文で手塚弁護士が紹介しているのは、米国の「NCSヘルスケア社」と「ジェネシス・ヘルス・ヴェンチャーズ社」が合併交渉をしていたところ、後から「オムニケア社」がより好条件な合併条件を提案したにも関わらずNCS社が取り合わなかったとして、オムニケア社がNCS社を「株主に最高の価値を実現するプロセスを採らないことは善管注意義務違反であるなどとして集団訴訟を提訴した」判例。
(この判例、当然まったく同じではないものの、UFJが住友信託の統合をやめてMTFGに乗り換えたケース、またはUFJとMTFGの統合に三井住友Gが割り込んでくる図式に驚くほどよく当てはまりますので、身を乗り出してしまうわけですが・・・。)
さて、このデラウエア州の裁判の結果ですが、「原審デラウエア州衡平法裁判所は、取締役の信任義務違反を認めず、原告らの訴えを退けたが、控訴審であるデラウエア州最高裁は、二〇〇二年一二月一〇日、三対二という僅差で、NCS取締役の信任義務違反を認め、合併の差し止め仮処分を認めるよう指示して原審に差し戻し」ということになりました。
では、NCS取締役の判断はどこが信任義務違反だったのでしょうか。
デラウエア州最高裁のロジックは以下の通りです。
まず、NCSとジェネシスの契約はかなり”ガチガチ”で、他から買収提案があっても、そちらに乗り換えることは事実上不可能なものでした。(UFJと住友信託間のような。)
他の買収提案を検討しないことが売り手企業の取締役の善管注意義務・忠実義務違反となるような場合には独占交渉権の例外とする条項(fiduciary out条項)も入っていなかった、とのこと。
最高裁はその意見書の中で、「ジェネシスとの合併を保護するロックアップの手立ては、いわゆる「防衛策」(defensive measures)として、敵対的買収に対する防衛策と同様に、通常の経営判断原則より厳格な、ユノカル判決の採用する「特別な精査」(special scrutiny)の対象となるとされた。」と「ユノカル基準」を採用する必要があることを述べています。
ユノカル基準とは
ユノカル基準とは、「企業買収防衛戦略」(商事法務)によると、Unocal Corp.という会社が、敵対的買収者からは自己株式を買い取らないという条件で自己株式買い付けを行って訴えられたユノカル事件でデラウエア州裁判所によって示された基準のこと。
上述の手塚弁護士の論文では以下のような説明が行われています。

このユノカル基準とは、敵対的買収に対する防衛策について、取締役が経営判断の原則による保護を受けるためには、いわゆる二段階審査により、まず、取締役側で会社の方針や効率性に対する脅威(threat)が存在すると信じる合理的根拠を立証しなければならず、さらに、第二段階として、当該防衛策が取締役会が合理的に認識した脅威との関係で合理的に関連する範囲にとどまること(「均衡」(proportionality)の要件の原則)を立証しなければならない、というものである。
最高裁は、ユノカル基準にいう「均衡」要件を満たすためには、NCS取締役会は問題となる合併保護策が「排除的」(preclusive)ないし「抑圧的」(coercive)でないことを立証しなければならず、かつ、その上で、そのような対応が認識された「脅威」に対する「合理的範囲の対応」であったことを立証しなければならないところ、そもそも本件における取引保護策は排除的かつ抑圧的であると判示した。

また、最高裁は、このような”ガチガチの”合併の合意は、「オムニケアがより有利な提案をしてきた時点で取締役会が少数株主に対する受託者責任を果たすことが完全に妨げられており、そのことからも本件防衛策は無効であり、法的拘束力がない(unenforceable)、とした。」とのこと。
日本の高裁が「法的拘束力がない」としたのと同じ結論のようですが、全く別の理由で「法的拘束力がない」としているところがポイントかと思います。
UFJの基本合意締結の「達人」度
報道ではUFJと住友信託の基本合意書は2年間他社との交渉禁止をうたっていたとのことですので、それが本当だとすると、(仮にこのデラウエア州の基準に当てはめると)かなり「排除的」で「抑圧的」であり、株主の利益を極大化する信任義務を果たしていなかったため無効である、ということになるかと思います。
「でも契約はしたんだから、どんな契約であってもその約束を破っていいのか?」ということにはなるわけですが、この点についても、手塚弁護士は、

たとえば、合併契約のように、株主総会の特別決議による承認が法的に要求されている契約において、代表取締役ないし取締役会レベルで、株主総会の承認決議が得られないまま合併を行う旨合意しても、そのような条項は商法に違反し、無効であろう。同様に、株主総会の承認決議が得られない場合には、一、〇〇〇億円の違約金を支払うとか、爾後一〇年間他社との合併や合併交渉・統合交渉を行ってはならないといった株主総会の自由な諾否の決定権を損なうようなペナルティ条項的規定も、おそらくは、合併について株主総会特別決議による承認を要件として求めている商法の趣旨に反するものとして無効とされるであろう。

と述べ、日本法の下でも、こうした株主の利益を著しく損なう合意が無効である可能性について示唆しています。
一方、先週のMTFGによるUFJ銀行への優先株式による出資は、報道等では「これで三井住友は打つ手なし」などと書かれていますが、3割(2100億円)増であればUFJ銀行による買取権を認めるという条項等が入っており、三井住友がTOBをかけて買収することについて(効率は悪化させるものの)、完全に「排除的」または「抑圧的」ではない「ビミョー」な条件にしているところがポイントかと思います。
このMTFGの出資の条件や「これは買収対抗策とか違約金ではない」という趣旨の発言をしていることなどを考えると、上記のような米国での判例等も研究した上でのバランス感覚で設定されている気配がします。
「結構スキがある」と見せかけて、より熟達した者が見ると「むむ、こやつ・・・できる・・・」というオーラを感じ取るという「巨人の星」的な裏読みの世界、でしょうか。一見ぼーっとした左門豊作の目の奥をのぞき込むと、左門豊作が体長50mの巨大クジラに変身、みたいな。
恐らく、(もしかしたら上記でご紹介した商事法務の雑誌や書籍を執筆した西村ときわ法律事務所のチーム本人か、または、)こうした米国の判例等をよく研究している弁護士の方が(MTFG側?の)アドバイザーに付いているのではないかと思います。
UFJと住友信託の基本合意契約の内容を知ったときには、「UFJは、そんな2年間他社と交渉禁止+ペナルティ(breakup fee)条項も定めないような条件で基本合意してしまうなんて、どういう法律感覚をしてるんだろう?」と思ったもんでしたが、こういう米国での判例の法理を考慮して無効である可能性を見越した上で、そういう条件で(やむを得ず)基本合意して明日に活路を見いだそうとした、というのだったら、「隙だらけに見せかけた酔拳」のような・・・実は法律の達人だった、ということなのかも。
「そんなわけ、ないない!」というツッコミが聞こえてきそうですが、住友信託との統合交渉にあたっては「それなりの」弁護士に相談したのでしょうから、上記のような米国の判例の動向は知っていたとしてもおかしくはないとは思います。
ただ、(UFJさん等の法務部門はよく存じ上げませんが)、ジャスト一般論として、日本の法務部門は「契約法的な観点からの検討」を行う仕事が大半で、「株主の権利保護」とか「コーポレートガバナンス」といった観点からの検討をする感覚はあまりないのではないかとも思われますので、インハウスの法務部門を中心に検討をしたりしたせいで、単にそういった視点が抜け落ちていただけなのかも知れません。
(ではまた。)
参考:Overview of the Delaware Court System
http://courts.state.de.us/Courts/
「Court of Chancery」→衡平法裁判所
「equity」→衡平法(wikipediaエクイティ参照)

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独占交渉権、剣豪たち?の戦い” への3件のコメント

  1. 10/10日本経済新聞の1面 攻防M&Aに本件に関する記載があります。
    ーーーーーーーー
    (前略)実は、優先株を使った防止策を考えたのは、UFJの顧問を務める岩倉正和弁護士だ。明治維新の立役者、岩倉具視から数えて六代目の子孫。41歳。東京都が銀行を対象に導入した外形標準課税は違法として大手銀が訴訟に踏み切り、和解を勝ち取った。この時の知恵袋が、今度はUFJ争奪戦に加わった。
    (中略)
    株主利益で判断
     社外取締役「優先株の発行条件は株主利益に反しないか」
     経営陣「9月末までに確実に資本調達することこそ利益につながる」
     UFJは増資交渉が本格化した8月下旬から取締役会をほぼ1日おきに開催。帝人の安居祥策会長ら3人の社外取締役は厳しく問いただした。
     国内ではほとんど判例もない買収防止策論議。経営陣の裁量がどこまで認められるかーー。「株主の利益のためという姿勢がはっきりしていれば訴訟にも勝てる」という岩倉氏の助言で資本対策が決まった。

  2. ニッポン放送の社員に嫌われる

    堀江さん社員に嫌われましたねぇ。リスナーに対する愛情を感じられないってどうして言