情報のハブとバベルの塔

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彼らは、「さあ、天まで届く塔のある町を建て、有名になろう。そして、全地に散らされることのないようにしよう」と言った。
主は降ってきて、人の子らが建てた、塔のあるこの町を見て、
言われた。「彼らは一つの民で、皆一つの言葉を話しているから、このようなことをし始めたのだ。これでは、彼らが何を企てても、妨げることはできない。
我々は降って行って、直ちに彼らの言葉を混乱させ、互いの言葉が聞き分けられぬようにしてしまおう。」
主は彼らをそこから全地に散らされたので、彼らはこの町の建設をやめた。
こういうわけで、この町の名前はバベルと呼ばれた。主がそこで全地の言葉を混乱(バラル)させ、また、主がそこから彼らを全地に散らされたからである。
(新共同訳聖書 創世記11.4-8)

94年ごろ、奥さんのイスラエル出張につきあって、経由地のニューヨークで今は無きワールドトレードセンタービルの展望台に上ったことがあります。で、思わず二人でプッと吹き出してしまったのが、ワールドトレードセンターの名前の通り、その展望台には世界各国の「お上りさん」がひしめいていたこと。ロシア、インド、中国といった各国の民族衣装の観光客がそれぞれの国の言葉で話していて、何しゃべってんだかさっぱりわからない。
そのとき思ったのは、旧約聖書のバベルの塔の記述も、古代のそうした「国際都市」の姿を素直に記述したものなんだろうなあ、ということ。
高い塔というのは必ずその時代の建築技術の粋を尽くしたもののはずであり、そうした塔を建てるためには、その高度な建築技術があることはもちろん、その技術を育み莫大な建築資金を捻出するための高い超過収益力がある必要があります。
そうした「ハブ」となる場所では、いろんな国からいろんな人が集まり、モノや情報が交換されることになる。
また、(名前を忘れましたが)以前読んだ建築関係の本で「都市は飢えたことがない」ということが書いてあって、なるほどなと思ったことがあります。有史以来、人類は何度も飢饉に見舞われてきたが、餓死者が出るのは必ず食料を生産している田舎であって、都市が飢餓に見舞われたことは無かった、というパラドクス。なぜなら、都市には「情報」が集まり「権力(金)」があるので、食料は都市に流れ込むからだ、という説明。
地方の漁港町に行ってうまい魚が食えると思って楽しみにしてたら、「いい魚は全部築地に行っちゃうんだよね〜」と言われてがっかり、みたいなもんでしょうか。
CNET Japanの「情報化社会の航海図」で渡辺聡さんが「コンテンツがこのまま増えたら、私たちはどうやって価値のあるコンテンツを見つけるのか。」という問題を取り上げておられます。が、「心配ご無用」と考えることもできます。
一つには、人間の生み出す情報は、同じくCNETで江島健太郎さんが取り上げておられる「バベルのコンピューター」が生み出すテキストのように全くランダムなものというわけではなく、相互に関連しあって「自己組織化」するものだから。つまり、「ハブ」ができればそのハブに合わせて自分を変化させるものだから。
検索エンジンというものが「ハブ」となって来たとなったら、「SEO(Search Engine Optimization)」という概念が出てきて、自分の作成した情報が、「ハブ」で処理されやすいように自らを変化させるのがいい例かと思います。
もちろん、多くの人の一番の関心事は「それがどういう技術によって実現するのか?」ということでありましょうし、それを言い当てるのは難しいとは思います。ただし、「ハブ」の取るべき戦略は明確で、自らの「権力」(株式会社なら例えばmarket cap.)をより強固なものに保ち続けること、です。「塔」を作る技術は時代とともに変化するが、「ハブ」であり権力を持つ限り(買収や合併と言った方法で)、「塔」を建てる技術は手に入るし、世界中から人も集まってくるわけです。
聖書のバベルの記述も、「もともと単一の言葉をしゃべっていた人間が言葉を乱され全地に散らされた」と考えると不安になりますが、(十万年単位の昔の記述ならともかく、数千年前の記述だとすると)、実際は世界各地にもともと別の言葉をしゃべる様々な民族がいて、それが「ハブ」であるバベルに集まって来ただけでしょう。
インターネットでもそれは同じで、60億人それぞれのもともと多様な考え方や情報が、インターネットにちょっとづつ乗ってきている。それは一見カオスのようですが、実は「ハブ」に情報が集まることで、「本当の」世界の様々な情報は探しやすくなりこそすれ、探しにくくはなっていないと思うわけです。
ただし、「ハブ」どおしの権力争いはありますよね。また、人類の歴史でいろんな都市が滅びてきたように、情報の「ハブ」もマネジメントやガバナンスの問題で滅びる可能性があるかと思います。
ハブが滅びる原因は、一言で言うと、「ネットワーク外部性に支えられた巨大な超過収益力を有するが故に生まれる慢心」でしょうか。新たな権力の芽が出てくるのをウォッチして、それを潰すか自らに取り込むかをし続けることが「ハブ」の宿命で、鉄器が出てきたら鉄の製造技術を習得し、検索技術が鍵となれば他社のサービスに依存せずに独自の検索技術を構築する必要があります。
そのマネジメントに失敗したときに、「互いの言葉が聞き分けられぬように」なっちゃうのかも知れません。
(それではまた。)

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