監査役への「期待ギャップ」は解消できるか

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土曜日曜に続き、「監査役Trilogy完結編」(?)、です。
「マンションは、こうだ!」さんからコメントを、その他以下のとおりトラックバックも2件いただいてます。ありがとうございます。
「企業法務についてあれこれの雑記:監査役を働かせる為には」より。

監査役をマトモに働かせる一番手っ取り早くて効果的な方法は、じゃんじゃんばりばり株主代表訴訟を提起することなんじゃないかと思ってます。
で、最近世論を気にするようになった裁判所が柔軟な判決(賠償責任までは認めないが、業務態度を非難する、など)を出すようになれば、少しはましになるんじゃないかと思うんだけど・・・いかがでしょうか。
つまりは、isologさんのエントリーにある図に、「訴えられても勝てるけれど、裁判所に文句を言われる」ラインを高い位置に書き加える、と。

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「ある米国公認会計士の鎌倉からロンドンへの道:監査役の権限」より。

しかしながら、「会計士が変わった」直接の原因は「責任追及がきちんと行われる」ようになったからであり、日本の金融危機やエンロン事件などにより訴訟リスクが顕在化したことによるものです。現行制度上で監査役が変わるにはやはり訴訟リスクにさらされる必要があるかと思います。監査役が何をどこまでやれば責任を回避できるかについては商法に明文がない以上、社会通念と監査役監査基準等の自主ルールのバランスで決まっていくものだと思います。だとすれば、「株主総会に足を運んで質問したり、委任状によるとしても議案ごとに議決権を行使したり、株主としての責任を、積極的に果た」すことも、社会通念を変えるという意味ではあながち間違った方向ではないかと思うのですが、遠回り過ぎですかね?

「期待ギャップ」は解消できるか
訴訟リスクを高めて監査役に緊張感を持たせるとか、株主を含めた世論を形成するというのはもちろん大切なことだと思います。
制度が最低水準として想定している監査レベルと世間が期待する監査レベルとの差を、監査論では「期待ギャップ」と言いますが、この期待ギャップは当然埋めていかないといけません。
ただ、「期待ギャップ」には、企業側の努力で解消していけるものもあるが、そうでないものもあります。
例えば、監査というのは、あくまで「サンプリング」に基いて行われるわけで、一定の事実を見逃していたからといって、それを見逃したことに重大な過失がなければ、監査役の責任を問うことは難しい。数万人の大企業のやっていることをたった4人程度で監査するわけですから(苦笑)、漏れがないなんてことは全知全能でない限り無理ですわね。
また、監査というのは、基本的には「指摘」をするだけで、「よーし、お前らがやる気がねえなら、オレが会社を変えてやる!」と、自分で手を下しては「いけない」わけです。被監査部門からは明確に責任・権限が分離されてないといけない。
(逆に、そうしたことは、訴訟の時の「いいわけ」になってしまう可能性も大きい。)
そういうことは一般の人は大抵知らないので、「ギャップ」はどうしても残ってしまうとは思います。
また、「会計士が変わった」のと違う点として、
・ 専門家による監査ではない。
・ 「グローバル・スタンダードw」な制度ではない。(そもそも、どこまで権限と責任を厳しくすればいいのかの力加減が明確ではない。)
というところは重要かと思います。
専門家による監査ではないこと
公認会計士は一定の水準の試験をパスし実務経験を積んでいる人達ですので、「当然ここまでは知ってて当然だよな?」「これを見落としていたってのは、重大な過失じゃないの?」という線引きを、比較的すっきり引くことができます。
また、監査法人業界は寡占構造化がますます進んでいるので、監査法人内で監査レベルを保つための内部牽制的なしくみを作り上げることが可能ですし、会計士協会でも毎年一定単位の研修が義務付けられるなど、業界をあげて監査のレベルアップを図ろうという動きも可能です。
これに対して、昨日述べましたとおり、商法が想定している監査役は、特定の知識・経験を要求しているものではありません。フツーの従業員だった人でもなれます。
従業員だった人が監査役になるというのは、「社長に頭が上がらず」というような悪いことばっかりとも言えなくて、例えば、その会社の製造技術に非常に詳しい造詣を持った人が、そうした観点から監査することで、外部の第三者ではできない監査ができる可能性もあるわけです。会計や法律は、そうした専門知識を持った人に「アウトソース」しやすい領域なわけですが、商法が監査役に、その会社の事業の中身を考えた業務の妥当性の監査まで求めているとすると、それは外の人ではわからない部分も多いので、元従業員しか活躍できない領域も無いとは言えません。
法律で「監査役の資格として必要な水準」を明確に定めれば、「何でこんなことにも気づかなかったんだ。アホー!」と監査役を責め立てやすくもなるわけですが、「誰でもなれる」ポジションである限り、いくら訴訟を増やそうが、監査役を追い詰めることは難しいところがあります。
日本は「法治国家」ですので、世論が感情的になればリンチ的な判決が出せるわけじゃなくて、基本的には法律や過去の判例等をベースに監査役の責任が判断されるわけです。
で、昨日述べたとおり、過去の判例は、監査役によっぽどの悪意がない限り、ほぼ監査役の全勝といったところ。
会社によっては、「専門家」を監査役に据えてらっしゃるところも多くなってきましたが、この手は有効かと思います。弁護士なのに「その法律は知りませんでした」とかはいいづらいので、責任を問える範囲は広がります。「北風と太陽」で、いくら寒い風を吹かせても監査役制度はよくならないかも知れませんが、会社が「その気」になれば、そういう専門家を監査役に配置することで、期待ギャップは小さくなると思います。
「グローバル・スタンダードw」な制度ではないこと
もともと日本の商法は戦前、ドイツの商法を参考に、監査役が強い制度だったわけですが、戦後、米軍占領下で、「なんじゃ?この監査役ってのは?」「日本の株式会社にも、アメリカ風のboardシステムを導入すべし」「よくわからんので、監査役っちゅーのも残しとこか」という経緯で、昭和25年の商法改正で大幅に権限が縮小されながら生き残ったものです。
(参考:http://www.tez.com/blog/archives/000059.html
つまり、憲法第9条と同じくらい経緯的にはナニだが、もしかしたら世界に誇れる制度なのかも知れませんね、という、日本独自のよーわからん制度なわけです。
「グローバル・スタンダード」がいいのかどうかはともかく、国際的なコーポレートガバナンスの変化とか、アメリカのSarbanes-Oxley法的な要素を取り入れましょうというときに、そうしたものとの整合性をどうしようかというところが非常に難しいことになるのは間違いないかと思います。
(実際、監査機関としての独立性などについて、米国上場の日本企業などでご苦労もあるようです。
参考:日本監査役協会、米国企業改革法に関するSEC規則案に対し協会意見提出
http://www.kansa.or.jp/PDF/ns030218j.pdf
常勤監査役と経済的独立性
最後に一つだけ。
常勤監査役(商法特例法18条2項)ってのもちょっとナニな制度ですよね。
「常勤」の定義が、24時間会社にいろってことなのか、週に1日来ればOKなのか、法律のどこにも書いてないですし。
監査法人は不適正意見出してその会社が潰れても他にも仕事はあるわけですが、その会社にべったり張り付いてる監査役は、正義を貫いて会社が無くなったら生きてけないじゃないですか。もちろん、りっぱに活躍されている監査役の方もいらっしゃいますが、一般論としては、そういう人に厳しい意見をいうことを期待するのは難しいわけで。
監査は、会社に長時間居れば居るほどいい監査ができるってもんでもないかと。他の会社の空気も吸うから客観的な観点から意見がいえるとか、経済的にも独立性が保てるということもあるわけです。
株式公開を経験した会社の人に聞いたら、主幹事証券に「(どーせ何もしないんだから)、常勤監査役の給料がちょっと高すぎるんじゃないでしょうか」てなことまで指導された、とか。
(ああ、かわいそうな監査役制度。)
委員会等設置会社への移行
コーポレートガバナンスをビシッとするには、(アメリカかぶれてなご批判もあろうかと思いますが)委員会等設置会社に移行して監査役を廃止するというのが、一つのわかりやすい手かと思います。
監査役は株主総会により選任されるので、政治における「そんな政治家を選んでいる国民も悪い」てな議論と同じで堂々巡りなところがありますが、委員会等設置会社において監査委員会メンバーを選ぶのは取締役会の責任になります。
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取締役同士が相互監査するというのは、監査人と被監査対象がごっちゃになるというデメリットもあるかも知れませんが、ショボい監査委員を選んだ取締役会は「コーポレートガバナンスを本気で考えていなかった」ということで責められる可能性は格段に高まりますし、強大な権力を持つ「天敵がいない」存在であるがゆえに逆に監査役を形骸化させざるを得ないという矛盾もなくなり、責任の取れる独立性の高い人を据えようということになるメリットの方が格段に大きいのではないかと思います。
ではまた。

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監査役への「期待ギャップ」は解消できるか” への2件のコメント

  1. 急がば回れ † 監査役制度はまだまだ続く

     不祥事会社の監査役は何をしておるのだ、との木村 剛氏の問いかけ
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