「経営判断の原則」

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「電車男」、読みました。前評判があまりに高くてちょっと期待しすぎたところはありましたが、かなり楽しませていただきました。初めてデートした時のドキドキ感とか思い出しましたね。「あらゆるケース」を想定していろいろシミュレーションしたりシナリオ書いたりとか。(笑)
でも、当たり前ですが、初めてのことをいくら頭で考えても限界があるわけで、絶対シミュレーションどおりでないことが発生するんですよね。w
ということで、(本題に入りますと)、本日は、経営上「やってみなけりゃわからない」ことについてのチャレンジとその法的責任についてのお話。
経営にはリスクがあります。
株式公開すると(しなくても)経営者は株主代表訴訟される可能性もあるわけですが、「やってみなきゃわかんない」ことも多いのに、失敗したからと言ってなんでもかんでも訴えられたんではたまったもんじゃない。特に、ベンチャー企業というのは、誰もやっていないこと、成功確率の低い(だけど成功すれば成果も大きい)ことにもチャレンジしていかないといけないわけです。
どこまでなら訴えられてもOKで、どの線を越えるとアウトなのか?というのは、その企業の置かれている環境にもよるので、一概には言えないわけですが、その問いに対する一つの答えが「経営判断の原則」という概念になります。
以下、今年2月に改定された日本監査役協会が発表した「監査役監査基準」について、旬刊「商事法務」5月5・15合併号(No.1697号)で、「「監査役監査基準」全面改定の背景と実務対応」という座談会が行われてますので、その内容から。(下線部筆者)

(武井一浩氏)大きな点としては、平成五年商法改正以降の株主代表訴訟の増加に伴う、いわゆる「経営判断の原則」に関する下級審判例の修正、それから大規模公開会社の取締役に対する内部統制システムの構築義務です。これらはいずれも取締役の善管注意義務に関する判例法を通じた解釈論の動きであり、取締役の善管注意義務に違反が無いかをチェックする監査役の職責にも当然影響する話になります。
(中略)
(尾崎安央氏)ビジネス・ジャッジメント・ルールですが、これはアメリカの判例法理であることはご存知だと思います。要するに、ビジネス・ジャッジメントについては司法判断しないということだろうと考えますが、アメリカの判例の進展において、意思決定のプロセスの適正性が重要視されてきたことも周知のことかと思います。そのような内容が十四条で明確化したわけです。つまり、取締役会が意思決定をする際にどれだけ十分な情報を得ているか、具体的なシミュレーションをどれだけやっているか、必要な場合に専門家のアドバイスを適切に受けているかなどを監査する。こういった厳格なプロセスのもとに経営判断したならば、結果は問わない。ときにリスクを取る経営判断があるかもしれませんが、予想されたリスクが発生したとしても、慎重な審議をした結果ならば責任は問わない。いい加減な意思決定をしていたならば、責任を取ってくださいということになるわけで、そこのところを具体的に、十四条一項で一号から五号という形で明瞭にしたつもりです。

ググってみますと、legal-definitions.comというオンライン辞書サイトでは、

in corporate law, business judgment rule is doctrine that protects officers and directors of a corporation from personal liability so long as the actors acted in good faith, with due care, and within the officer or director’s authority.

と、一歩進んで「取締役等をprotectする」原則であると言ってますね。(下線部筆者)
こうした原則が明確になるによって、取締役は思う存分新しいことに「チャレンジ」することができます。
ただし、訴訟等を恐れてビビりすぎるのも困りますが、逆に失敗の恐怖のヒューズが壊れてて、「何事も、やってみなきゃわかんない」と、テキトーな判断で新事業とかやっちゃうベンチャー経営者も(よくいらっしゃるんですが)困ります。経営者がわからなくても、誰か専門家に聞いたり部下に調べさせればわかる話というのも多いわけです。
チャレンジも大切ですが、その会社にとっての「in good faith」とか「due care」とはどういった水準なのか、というのもよーく考えて行動したほうがいいと思います。
(ではまた。)
(以下参考資料)
監査役監査基準
http://www.kansa.or.jp/cc01.html
II 改定の視点
 取締役会その他における意思決定に関しては、取締役の善管注意義務履行の判断基準としていわゆる経営判断の原則が判例で定着しつつあることに鑑み、十分な情報と適切な意思決定過程に基づいた合理的決定がなされているか否かという観点を、監査役監査基準に盛り込むこととした。
(中略)
(取締役会等の意思決定の監査)
第14条
1.監査役は、取締役会決議その他において行われる取締役の意思決定に関して、善管注意義務、忠実義務等の法的義務の履行状況を、以下の観点から監視し検証しなければならない。
(1)事実認識に重要かつ不注意な誤りがないこと
(2)意思決定過程が合理的であること
(3)意思決定内容が法令又は定款に違反していないこと
(4)意思決定内容が通常の企業経営者として明らかに不合理ではないこと
(5)意思決定が会社の利益を第一に考えてなされていること
2.前項に関して必要あると認めたときは、監査役は、取締役に対し助言もしくは勧告をし、又は差止めの請求を行わなければならない。

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「経営判断の原則」” への3件のコメント

  1. 電車男を読破したブロガーさまに。

    © いざまん NO.25
    劇団ポツドール【激情】の
    通し稽古を見学して参りました。
    開演初日の6月23日まで、あと10日——
    やや変則的になりますが、
    こんな人に【激情】を観に来てほしい!と、
    いざまんが勝手に思うブロガーさまにTBを送りつつ、
    ポツドール【…

  2. 営業判断(Bujiness Judgement Rule)にかかわる実務的な対応はいかにするべきでしょうか。たとえば取締役会に提出される議案書、稟議書、資料の内容、構成、とくにリスク管理の面からの注意点があれば教えて下さい。

  3. うーん、それはなかなか一言で申し上げるのは難しいですが・・・。
    本文に書いてあるとおり、
    (1)事実認識に重要かつ不注意な誤りがないこと
    (2)意思決定過程が合理的であること
    (3)意思決定内容が法令又は定款に違反していないこと
    (4)意思決定内容が通常の企業経営者として明らかに不合理ではないこと
    (5)意思決定が会社の利益を第一に考えてなされていること
    といった要件を、一般の人や投資家の目から見て、満たしているといえるのかどうかを、「その都度よく考えながら」やる、ということがまさに大切ではないでしょうか。
    経営というのは、誰もやってないようなことにもリスクを負って取り組んでいく必要があるもので、定式化ができないからこそ、「経営判断の原則」が必要になるわけです。つまり、経営判断について、マニュアルを決めて「この通りやればOK」というような運用をすること自体、経営判断の原則の精神に反している、ともいえます。
    一方で。今の日本だと、「社長がおっしゃるので・・・」てな感じでモノが決まっている企業さんがまだ非常に多いでしょうから、事業に固有ないくつかのリスク等についてパターン化されたチェックリストや、一定規模以上の影響がありうるリスクに対してはコンティンジェンシー・プランを作成する等のガイドを決めて、それを毎回意識しながら取締役や監査役の方々が運用していけば、少なくとも訴えられて負けるということはないでしょうし、日本でも比較的コーポレートガバナンスがしっかりした会社、ということになりうるような気もします。
    (概念的な話で恐縮ですが、ご参考まで。)