よーく考えよう(論理のすり替えにだまされるな)

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ネットバブルのとき、
「赤字幅が大きければ大きいほどvaluationが高くなるのがシリコンバレーのルール。だから赤字は大きければ大きいほどいいんです。」
てなことをおっしゃる方がいました。
今なら「何をバカな」と一蹴されるところですが、その当時は、日本のVCの方々も、「はー、なるほどー。さすがシリコンバレーはすごい!」と関心して聞き入ったりして。(爆)
「競争が厳しくて赤字を覚悟しないと競争に勝ち残れない」のと「赤字幅が大きければ大きいほど競争に勝てる」のとは全く違いますよね?(よーく考えよう。)
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上のベン図でいくと、「初期に赤字でも経営が成功するケースもある」というのは真ですが、「赤字だと必ず経営が成功する」ということにはなりません。
「どこそこでは○○である」というような話は、必ず根本的な原理に立ち返ってよーく考えるべきです。
例えば、創業者の持株比率について、VCなどの投資家の甘いささやきはこうです。(下図参照)
「あなた(創業者)は、今は90%のシェアを持っている。[オレンジ色の部分]
確かに、エンジェルなどから追加出資[薄緑色の部分]を受けて、あなただけでも今の企業価値5億円を10億円に上げられるかも知れない。その時70%の持分を持っていれば、あなたの持分は7億円だ。((A)コース)
一方、我々が株主になれば、企業価値を40億円にすることができる。((B)コース)
あなたのシェアは30%に落ちるかも知れないが、40億円の30%=12億円のほうが、7億円より得。つまり、創業者のシェアは高ければ高いほどいいってわけじゃないんだよ。
(だから我々があなたの会社につけるvaluationは低いが、結局あなたは得するんだよ。)」
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たしかに計算はあってます。
ただし、よーく考えましょう。この話には、「VCが入ったから企業価値が40億円になる」という一つの大きな仮定が入ってます。
もしかして、自分でやっても40億円になるんじゃないですか?VCは金を出す以外に、何をしてくれるんですか?上の絵は、確かに経営者も儲かりますが、一番儲かるのはVCです。創業者の持分が低くてもいいというのは「VC側の論理」です。よーく考えてください。
特に、以下のような点をよーく考える必要があります。
VCは何をしてくれるのか?
ほんとにすごいVCで、いい人材は連れてくるわ、ビジネス上のアドバイスはすごいわ、当社と取引してくれるわけがないような取引先との提携を成功させるわ、というような投資家なら上記のロジックは成り立ちます。ただし、取締役会に出てきて偉そうなことを言うだけで、まったくピントがずれたおっさんだったらどうします?Sequoia Capitalならすごいけど、ただの「セコイや」キャピタルかも知れませんよ。
また、今までの実績がすごくても、その実績が当社の事業領域と異なる分野のものなら、その実績は必ずしも当社に生きないかも知れませんよ。
よーく考えてください。
ほんとにすぐに金が必要か。
長期間利益が出ないビジネスモデルなのか、キャッシュが早めにわいてくるモデルなのか。
増資を受けないと倒産の危機になるというなら、持分の低下も甘んじて受けないといけないですが、すぐにでもキャッシュを生むのであれば、交渉上も弱腰になる必要はありません。
Amazonみたいに初期は大赤字でも成功する企業もあれば、eBayやMicrosoftみたいに、当初から収益を上げるビジネスもあるわけです。
VCが「早く投資しなきゃ周りに遅れを取る。金は当方がバックアップするからどんどん投資しよう。持分が低くなってもいいじゃない。」てなことを言っても、ちょっと待った。そういうのはバブってる時の考え方。じっくり腰をすえて投資は後回しにするほど得かも知れません。
公開後に思ったとおりの経営はできるのか?
「機関投資家がもってくれるように業績をしっかりとして株価を保てば、買収もできない。要は業績だよ。」というような単純な理論に惑わされないように、よーく考えてください。
ホントに株価は保てるんですか?500億円くらいの時価総額になれば機関投資家ももってくれるかも知れないが、30億円くらいで公開しても、機関投資家は見向きもしないかも知れませんよ。
世の中ゼニだけか?
前述のロジックは、カネだけを考えれば確かに成り立ちます。
ただし、世の中「ゼニ」だけでっしゃろか?
経営者が「やりがい」を追求することは悪なのでしょうか。他人のアドバイスに耳を傾けることも重要ですが、自分で裁量が自由にふるえるほうが、マネジメントもうまくいくということはないですか?
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他の条件が同じなら、「経営は自由になるし、金も儲かる (A)」のが一番いいに決まってますよね?
(A)でもいけるのに、「シリコンバレーでは持株比率にはこだわらない」なんて単純な議論に惑わされて、わざわざ「経営は自由にならないが金は儲かる(B)」コースを選ぶ必要があるんですか?
シリコンバレーだってどこだって、他の条件が同じなら「持株比率は高ければ高いほどいい」に決まってるんですよ。当たり前でしょ?
持株比率が高いとあなたがゴーマンになる可能性がある?そうかも知れませんね。じゃあ、VCはゴーマンにならないんですか?一般投資家は必ずあなたより正しい判断を下すんでしょうか?
持株比率はそのままでも、あなたが尊敬できる人数名に社外取締役に就任してもらい、その意見に真摯に耳を傾けるという方法で自分を律することはできませんか?
よーく考えてください。
世の中、持株比率が高くてゴーマンになっているベンチャー経営者より、持株比率が低くて思うように裁量がふるえないベンチャー経営者の方が多いと思いますよ。
「シリコンバレーの創業者は経営者の椅子にこだわらない」という話もそうです。確かに経営者に向かない創業者もいます。が、だからといって、「創業者は必ず経営者から降りたほうがいい」なんてことにはならないです。
第一、世界一の金持ちのビルゲイツだって未だに経営者じゃないですか。全く説得力がないですね。(なに、シアトルはシリコンバレーじゃない? はいそうですね。)
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Krpさんが、「安定した経営権確保のため、公開後の安定・友好株主全体の持株比率を意識する必要があります」(中略)と証券会社や監査法人がアドバイスし、経営者も上場後も自身や安定株主の持ち株比率に拘るのが日本だと思っています。」とおっしゃってますが、だからといって、「日本の経営者のマインドはシリコンバレーに比べて遅れてる」なんて思う人がいたら、そんなことを考える必要は全く無いですと申し上げたい。
持分をなるべく高く保とうとすることは世界中どこでも合理的な判断ですし、投資家から有益なアドバイスが受けられなかったり、公開後、不安定な株主構成で経営者が本業に注力できない状況が予想されるんだったら、なおのことそうです。
「シリコンバレーではそうだから」というような単純な論理で安易に持分をどんどん人に分け与えたら、えらい目にあいますよ。
要は、経営者と社外の投資家の「能力のバランス」だということです。
経営者がアホなら、外の投資家に持ってもらったほうがいいかも知れない。その事業について、経営者がVCや一般投資家よりも適切な判断ができるなら、何も外部の投資家にホイホイ持分を分ける必要は無いわけです。
(以上)

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よーく考えよう(論理のすり替えにだまされるな)” への2件のコメント

  1. なのにGoogleはIPOするの

    磯崎哲也さんから、「よーく考えよう(論理のすり替えにだまされるな)」というご指摘を頂きました。いつもながら勉強になります。ありがとうございます。 コーポレート・ガバナンスが経営者次第というご指摘はその通りで、経営者は法律に違反しない範囲で、自分なりのガ…

  2. >世の中、持株比率が高くてゴーマンになっているベンチャー経営者より、持株比率が低くて思うように裁量がふるえないベンチャー経営者の方が多いと思いますよ。
    >要は、経営者と社外の投資家の「能力のバランス」だということです。
    そうですよね〜。勉強になります。