弁護士事務所の「オープン化」

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本日の日経朝刊「大機小機、弁護士事務所の社会的責任」(筆者「盤側」氏)から。

「(略)しかし、証券市場や大株式会社問題については、若干の例外を除いて裁判所の存在は希薄である。
日本の法曹は裁判官のみならず検察官も含めて近時急に台頭してきたこの種の問題について格別の教育を受けてきておらず、日本の企業社会のあり方を左右する問題に自信を持って判断を下せるところまではいっていない。」

一部の弁護士を除いて知識やノウハウが不足しているわけですね。

「日々ルールを示すことが大事なこの分野で、絶対勝たねばという検察の感覚も問題だ。」

つまり、「明らかに黒」ということについては手を出すけど、「ビミョー」なグレーゾーンは裁判や判例にはなっていかないということですね。

「そこでこの種の問題については、たとえば採用した弁護士を米国のロースクールで学ばせ、あるいは米国での実務経験のある人材を集めている大きな弁護士事務所の意見書が大きな影響力を有している。」

そうなんでしょうね。昨日ご紹介した書籍の編著者も、そういうご経歴の方です。

「新しい金融商品や企業再編の仕組みを編み出すのも大弁護士事務所だが、司法の判断を受けないで実務が定着してしまうことも多い。自由度の高い企業再編法制はくっついても離れても破綻しても弁護士事務所が大きくもうかることになっている。」

おっしゃるとおりの構造になっているかとは思いますが、弁護士や訴訟の数が格段に多いアメリカではよりその程度は大きいので、司法のガバナンスのメカニズムが活性化しても、ますます、弁護士事務所は儲かると思います。

「配当という名の企業再編(他社株式による現物配当)も導入が提案されている。多様な種類株式等々、ちょっと聞いただけではわからない法制は弁護士事務所天国を意味する。」

「種類株」。やはり直感的に「カチン」と来る存在なんでしょうか。
ただし、アメリカでも、「Class B stock」だったら、ちょっと「むむ?」という感じでしょうけど、単なる優先株(preferred stock)だったら「フツー」ですよね。
つまり、こうした手法は、より「市場メカニズム」が発達したアメリカのプラクティスをマネて導入されようとしていることですから、今後、もうちょっと「複雑さ」は増すと思います。
一方で、クライアント側や「市場」の理解の限界は確実に存在します。ですから、例えばデリバティブがどんどん「エキゾチック」になっていっても無限に複雑になるわけじゃないのと同様、「受け入れるほうの限度」によってある程度縛られると思いますけどね。
GoogleのDual Class構造だって、数兆円の会社なら「あり」でも、日本では、たとえ、証券取引所の審査はOKだったとしても、時価総額30億円くらいの会社がやろうとしたら、「ちょっと待った」がかかるでしょう。
つまり、証券というのは、お客の理解力ももちろんですが、大勢の証券会社の営業マンが売らないといけないものなので、適合性の原則上、その証券マンがお客さんに説明できるかどうかで限界が出てきます。つまり、証券市場、証券業界全体のアホさ、賢さかげんで、売れる証券の複雑さも制約を受けてくる。
Googleのような大規模IPOなら、そうしたややこしいことを「勉強」する労力をかけても、コスト的にペイしてきますが、小さな会社だと、「そんなややこしいこと、めんどくさいからやめてくださいよ」ということになります。
Googleあたりが一発ややこしいことをやってくれると、市場の「お勉強度」も一気にどーんと上がりますね。
さて「大機小機」に戻りますと、この筆者の方は、

「各弁護士事務所は、これらの分野でどのような意見書を書いたかを天下に公表し、大方の批判を自ら求めるというくらいの姿勢を示すべきではないか。」

と結んでらってます。しかし、それもちょっとムリっぽいですよね。手の内を明かせば、それだけ、敵から攻撃されるスキも見えちゃうわけですからね。どのクライアントのことを言ってるのかもバレちゃうでしょうし。
「依頼者も悪いよなー」とは思っても、その依頼者が勝訴するために全力を尽くすのが弁護士のネイチャーですから。
ネット系ビジネスなどだと、参入障壁が低くてソフトウエア作成のコストも安く、一発当たればスケーラブルにどーんと売上も期待できたりするので「オープン化」によるガバナンスのメカニズムが働きやすいですが、弁護士業界の場合、参入障壁がやたら高くて、案件数も少なく、労働集約的。なかなか、「オープン化」をするインセンティブがわかないところでしょう。(アメリカですら、あんまり法律領域の「オープンな」取り組みって聞いたことがないですが、何か事例をご存知の方、いらっしゃいますか?)
(それでは。)

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弁護士事務所の「オープン化」” への2件のコメント

  1. 通常の会社の決算配当で、金銭での配当に代えて、自社所有の子会社株式を現物配当することは、商法上可能でしょうか?
    上場企業の場合は、株主が納得しないのでほぼ不可能だと思いますが、非上場の同族会社の場合は、株主全員の同意を得るのも簡単で、可能のような気が致しますが…
    もし宜しければ、ご回答下さい。
    お手数をおかけします。

  2. すみません、お返事遅くなりまして。
    (メールアドレスを拝見すると、プロの事務所の方(?)のようですので、会社法専門の弁護士さん等にお問い合わせいただいた方がよろしいと思いますが、以下、「雑談」的レベルのお話として)、
    ご案内のとおり、米国のLLCや日本の民法上の組合等(の税務上、導管体となるようなvehicle)では、現物配当を行うケースを見ますし、商法にも株式会社等が現物配当しちゃいけないとは直接には書いてないかと思いますが、実際、株式会社等で現物の配当をするということになると、本当に商法は現物での配当を認めていると解釈されるのかどうか、ということのほかに、
    ・そもそも「配当(商法290条)」とする必要があるのか。株主に対する無償譲渡など、他のスキームではだめなのか?
    ・その現物の含み損益があるかどうか。配当をする会社側、配当を受け取る側(法人、個人)での課税関係はどうなるのか。
    ・配当可能利益から差し引く金額は、その現物の簿価か、含み益部分も含めるのか?
    ・その場合、利益処分計算書はどういう表示となるのか
    ・株主平等原則に反しないように、うまく、現物が株式数に応じて分配できるか。(商293条)
    等々、いろいろ考えることがありそうです。
    ご参考まで。